【教えて!ターさん】糸の特性と斜行の影響

  • 教えてターさん!

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今回の「教えて!ターさん」は、糸・ニット業界では避けて通れない「斜行」についてです。

斜行が起きる原因から、撚り回数の話、「斜行」の語源まで詳しくお話しています。

※個人的な見解が含まれる場合がございます。あらかじめご了承ください。

佐野
佐野

今日はちょっと難しいテーマ「斜行」についてです。
ニットに斜行はついて回る問題じゃないですか。斜行が起きるっていうことは割と常識にはなってると思うんですけど、それがゆえに間違った認識が多いのかなとも思ってて。

佐野
佐野

そもそもニットにおける斜行がなぜ起きるかとか、その辺のお話を教えていただけたらなという感じです。

斜行って一番簡単に言ったら、糸のバランスが取れていないからになるよね。
糸を作るとき、それを双糸にするときに、はじめの糸がZ撚りに入ってるものに対して、今度は上撚りはS撚りに。だいたい綿の場合だと3分の2ぐらいで戻すっていう形でやるんだけども、やっぱりそれもちゃんとしたバランスを取らなきゃいけないんだよね。

ターさん
ターさん

他の撚糸ものなんかの時にも、下撚りに対して上撚りを何回に設定するか、それでバランスを取って、糸にして天竺で編んでも斜行が出ないようにするんだ。
まあ、ゴム地だとか畦だとかっていう両版組織の場合は、斜行って軽減されちゃってなくなっちゃうんで問題ないんだけど。
どうしても天竺の場合、糸がそのまんま素直に出てしまうので、弱ければ左に曲がっていったりしてしまう。

ターさん
ターさん

で、ここが一番大事なとこなんだけども、じゃあ今言った綿。
前には斜行しなかったけども、次のロットで斜行するって言うことがあるんだけれども、厳密に言うとね、綿って繊維自体にトルク(糸に撚りをかけたときに発生する、撚った方向とは逆の方向に反発する力)があるんだよね。だから綿が採れた時によって、そのトルクの強さ加減が違うんだよ。

ターさん
ターさん

前に下寄りに対して上寄りを800回で大丈夫でした。だから今回も同じ糸だから、800回の上撚りで設定して作ったのに斜行しちゃう。
なんでだろう?斜行が起こってしまうんだ。綿のそのもの自体のトルク、撚りの強さ、捻じれの強さがあるので、厳密に言うとそれをいちいち測んなきゃいけないんだよ。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

うーん、なるほど。

そういうのってね、細くて、撚りの強いいい糸に多いかも。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

あ、そうなんですね。

普通の定番レギュラー綿の方が、わりかし問題が少ないかな。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そういうトルクの個体差が少ないんですかね。

まあ、あるんだろうけどね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

細くて長いとやっぱりちょっと曲がっていくんですかね。

かもわかんないね。経験上、そういったものが多いよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

あ、そうですか。原毛の段階での撚りを見るってことはできないですよね。

うん、できないね。ただでも、やっぱりそういうものを測る装置があると思うんだよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

あとはその生地糸作ってみて、一回撚ってみてから。

うん、撚ってみてから、ちゃんとバランスが取れてるかどうか、調べなきゃいけないんじゃないかな。
前に800回でOK、今回も800回って、やはり綿もその時、採れた年の気候とかが違ったりとかさ。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

はいはい。

農産物と一緒だからさ、その時の出来によって多少なりともトルクの強弱が出ちゃうんじゃないかなと思うんだよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

なるほど。そもそも斜行って、しっくり来ない人もいるかもしれないですけど、天竺で起きるじゃないですか。もっと広く言うとシングル組織で起きる。織物だと起きないですよね。

織物の場合は、初めから斜行は関係ないから。
ピンと張ったもの同士、縦糸と横糸だけなんで、斜行関係ないんだよ。後加工で直るしね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。だから単糸で使うっていうものも多いわけですよね。多少の歪みを直すみたいなのはあると思うんですけど、斜行っていう考えではないですもんね。

じゃない。60番の糸を作る時に、織り糸の撚りが一番強い。 ある程度強くないと縦に引っ張った時に切れちゃうから撚りが強くなっている。
次に丸編み用の糸。 その後が一番風合いを大事にしている横編み用の糸で、撚り回数が少なく、撚りバランスを大事にしているんだよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

1個のループの形に糸を曲げて置いてみた時に、極端に言うと歪むか歪まないかの話ですよね。ターさんから教えてもらったのが、斜行するかしないかを見るのに糸をたるませてみろと教えてもらったことがあって。

糸をもってUの字にさせておいてね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですね。Uの字に垂らした時にくるくるくるってなると、「ちょっと撚りバランスが悪くて、これは斜行する可能性が高いよ」みたいな感じです。
その歪み、くるくるくるってなる曲がり方がゆっくりだったりとか、あんまりそうならなければ結構バランスが取れてる。

だから垂らした時にそのまんまUの字が、そのまんまだったらバランスが取れてる。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。それがいわゆる極端に言うとループの形ってことですもんね。

そうだね、バランスが崩れてるとどうしてもよじれ、糸がよじれを直そうとするから2本がからみ、くるくるくるって丸まって、カールヤーンみたいになっちゃうんだよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

紡績の単糸であった場合、片方向にしか撚りが入ってないから、それが必ず大きいっていうことですもんね。

だから、もう一本の同じ撚り方向のものを合わせて逆方向に撚ることで、その撚りバランスを取るんだよ。下撚りに対して、じゃあ、上撚りを何回にするかっていう形をとるんだね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですね。
ちょっと余談ですけど、その撚り回数の話、やっぱり糸屋じゃないとそこまでの話ってなかなか出てこないと思いますけど、僕らが分かりやすいのは1mあたりに何回撚りを掛けるかってことですよね。

あと、そこの値によってインチ何回かっていうのもあるんですよ。メーター何回か、インチ何回か。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

それはもう考え方が紡績工場さんによるって感じですよね。

どっちかっていうとどうだろう。
あんまり撚りの入れないウールなんかはメーター間でもいいかもわかんないけども、合繊だとかの細い撚糸ものだとかっていうとインチ何回とかって結構撚り入ってるからね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですね。そのままだとだいたい48番ぐらいで、下撚り600回とか。

そんな入ってたっけな。もっと少ないと思う。綿の40番で撚りが1200回ぐらい。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。それに対して上撚りで900回なのか800回なのか。紡毛だと下撚りで500回とか400何回とか。

紡毛はどうしても膨らませたいから、撚糸回数は少なくしたいよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

ルールだと紡毛にしても下撚りの半分くらいの回数で上撚りにするって感じですけど。綿だと3分の2くらいなんですか、大体。昔教わったことがあります。

だから普通撚りの綿なのか強撚なのかによって。強撚の場合ももともと下撚りが強いじゃない。それに対して3分の2で上撚りかけていくんだけども。そうすると撚り回数が増える。
普通のものは番手40単で下撚り1200回だとしたらば。強撚にすると下撚りを1800回にする、今度は上撚りも1200回と増えちゃうじゃないですか。

ターさん
ターさん

今度は、あんまり撚り数が多すぎると切れちゃうからね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。それが「撚り切れ」っていうんでしたっけ。最終的には切れるんですね。

だからそれ以上もう糸の強度が持たないんだよね。
簡単に言ったら、ずっと撚ってるとちぎれちゃうじゃない。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そこで難しいのが、おそらく綿よりウールですよね。
ウールの強撚ってなかなかない理由ってそこですよね。

弱くて、柔らかいから。ウールの方が毛足も長いんだけどね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

僕の勝手な印象ですけど。なんか綿のほうがちょっと素直じゃないですか。
原綿がトルクが入っていて、ちょっと初期段階は大変と言っても、生地糸でちゃんと強撚にしてバランスが取れて、染色終わったら、一応そのままキープできてるイメージがあるんですよ。
その後の問題はそんなにないかなっていう。ウールだと、生地糸で追撚がある程度限界があって、そんなに強撚できない状態。

佐野
佐野

でもいい感じのジャリっとした感じになったかなって思っても、染色後にまためちゃめちゃ変わりますよね。膨らんでしまって、ちょっと強撚にしたけど柔らかいじゃんとか、また斜行が別の感じに出てるよとか。

面白いのは、ウールじゃなくて、獣毛になるけども、モヘアとかアルパカ、あれはまた別な歪みができるんだよね。アルパカ100%の天竺のセーター。別にガーメント自体は曲がってない、まっすぐなんだけども、天竺編んでいくと八の字が上からどんどんと重なっていく。それが途中でひっくり返るんだよ。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

ああ、あの下駄目ってやつですね。

バランス的には取れてるはずなのに、編んでるうちに歪みがそこに溜まっていって、跳ね返っちゃうって現象があるんだよ。モヘアとアルパカに特に見られる現象。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

100%の梳毛引きでやると、そうですよね。アルパカもモヘアも。混率が高ければ高いほど。

100%が多いよ。古着屋さんとかで、そういうのを知って昔のセーターを見てみると、意味がかなってるなって思う。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

やっぱりアルパカのセーターって、横目使いが多いんだと思うんですよ。結構目立たなくしてるんだな。その意図がどこまで本気だったかわかんないですけど。

本当にね、普通にアルパカ100%の天竺って少ないんだよ。
一社やってるとかあったけど、それはもうこういうもんだっていう形に出していたね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

まあ確かにあれが味ですしね、ちゃんと柔らかいし。
あと斜行に悩まされるのがリネンですね。リネンは今田崎さんに教えていただいた綿以上に個体差、生地とのロット差ですごくバランスが取りにくいイメージがあります。

綿よりやはり麻の方がよりトルクがシビアに出るかも。でね、ラミー、リネンなんかだと、それこそ同じ畑の中でも山側で採れたものと谷側で採れたものとまた変わっちゃうんだよね。色も違っちゃうんだよ。日がよく当たるところと当たらないところと。

ターさん
ターさん

だから一つの畑のものを全部きれいに混ぜてやるんだけど、どうしてもね、100%きれいに混ざるってことはありえないから。
リネン100%で、天竺で本当にきれいにまっすぐってかなり難しい。
もともと浅色のやつを染色段階で脱色するんで、やはりそういうのでも変わってくると思うんだよね。そこが一番難しいかも。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。

だからリネン100%よりもうちの素材だとリネンシャワーとか。
リネン70%にポリエステル30%を入れることによって 斜行が無く編みやすい糸にしたりとか、そっちの方が扱いやすいよ。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。リネンクロスも同じ理屈ですもんね。

あれはリネンに対してダブルカバーで、そのよじれを抑えているという形だから、そっちの方が使いやすいよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

確かに。この辺はついて回る問題なんで、焦らず冷静にって感じですよね。なんで斜行スタンダードではなくて、直さなきゃねっていう感じで。

これはね、やってて面白い問題があって、うちでやってる素材なんかでも、何十社って工場さんで使ってもらってて、斜行って言われないのに、一社だけが「斜行して使いたくない」っていうのがあったりするもんね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。機械との相性っていうのもありますよね。

これだけはね、いまだにわからないんだよね。よそのニッターさんで編んでるので、斜行も出てないから、直すこともできないんだよね。
一社だけのために、今度はそれで撚りを変えちゃうと、他の工場さんに送ったときに、揺れが増えちゃってたり、減ってたりなんかして、調整したら、そっちで今度は問題が起きる可能性が大きいですね。

ターさん
ターさん

たまーにね、そういうのがね、あるんだ。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。新潟とか山形とかで展示会をするときに、ニッターさんの編み立ての人とか、プログラミングの人とか、現場の人とか、来てくださるときがあるんですよ。
もう何年も前ですけど、そのときに僕たまたまいて、ニッターさんのプログラミング、編み立ての人に「斜行ってどうやったら直りますかね」みたいな話をしたら、その人何て言ったと思います?

佐野
佐野

「邪心を持って編むと歪むんだよ」って。まっすぐな気持ちで編み機に向き合わないと斜行するって言ってました。それぐらい起きるものだから。

大昔の話だけども、タイの工場さんなんか、手横の機械のベッドの幅が右と左と開き具合が違うんだよ。そうするとどうしても斜行が出ちゃう。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。よく言いましたよね。もう今はないと思いますけど、やっぱり機械を水平に置かなくてはいけないから。

水平で、ベッドのサイドも一律に何ミリっていう形で、右測も左測も同じ幅じゃないと斜行はするよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

逆に斜行させないように、あんな条件を揃えるっていうのって なかなか大変なことをやってるわけですよね。いいと思われたいと思って考えると。

佐野
佐野

あんまりいい話じゃないですけど、災害の後とかはニッターさんが気にされてたりするのは、そういうところだったりしますよね。
機械が動いちゃったってなって。動いたイコール、全部水平のバランスが崩れたってことですね。だからきちっとしたものが、編めなくなっちゃうみたいなのは、いつも聞きますよね。

だから1回、全部メンテナンスしなきゃいけなくなっちゃうんだね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。なるほど。

あと、あまり同じ糸を巻き返ししていると、どうしても撚りが入ってしまうので、斜行になる一つの原因でもあるんだよね。あまり巻き替えなんかもしない方が良い。ロウ引きでも一回ぐらいに押さえてもらうとか。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

一回でいかにうまくやるかってことですもんね。

どうしても片面しかつかないからね。柔らかいロウを使ってもらってなるべく付着するような形をとってもらうとか。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。なるほど。勉強になりました。ありがとうございます。

本当に昔からついて回る問題。最終的に今は、斜行が出ちゃったときには、糸のバランスが右に曲がっているか左に曲がっているかで、撚糸工場さんで撚りを少し戻してもらうとか、撚りを足してもらって調整っていう形で、その糸が使えるようにしてるんで、大きな問題にはならない様にしているんだね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

ドツボにはまるとき大変ですよね。こっち行って、あっち行って、ちょっとずつで。しかも撚り回数もそのあと10回とかできないじゃないですか。最低でも30回。

10回やるときには、例えば150回撚りを入れちゃって、140回戻すとか、2回やらなきゃいけないとかね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうすると今度、繊細な糸だと風合いに影響出たりとか。

毛羽立ったりとか色々してくるけど、ただ斜行を止めるだけだと、そういう形でバランスを取っていくしかないんだよね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

最後に余談というか、これもニット業界あるあるみたいな感じなんですけど。斜行って、皆さん字で伝えようとすると、「斜めに行く」って書く人と「斜めに向かう」って書く人いますよね。ここって決まりないらしいんですよ。
辞書において多分斜行って言葉はあるんですけど、ニットにおける斜行っていう意味合いは認知されてなくて、僕らが業界用語として使っている言葉なんですよね。

佐野
佐野

斜行で一番パッと出てくるのは「斜めに行く」の方の字で、競馬なんです。馬の走りの斜めに走っちゃったことなんですよね。だからこれ僕ら普通に使ってますけど、実はただの業界用語。だからまあ気にせずどっちも正解だと思うので。

僕は一番初めに習ったのが、斜めに行くだったから、斜めに行くの「斜行」にしてるけどね。

ターさん
ターさん
佐野
佐野

そうですよね。やっぱりいまだにどっちも使われるので、どっちが正解でもないと思うんですけど。実は業界用語だったみたいなのがまだまだ結構ありますよね。
そんなところですかね。じゃあ、今日は斜行のお話でした。ありがとうございました!

まとめ

  • 糸のバランスが取れていないと「斜行」する。
    • 同じ方向に下撚りしたものを、別の方向に上撚りし、何回撚り設定するか、バランスをとって斜行が出ないようにしている。
  • 綿や麻は繊維自体にトルク(糸に撚りをかけたときに発生する、撚った方向とは逆の方向に反発する力)があるため、採れた状態により個体差がでてしまう。
  • アルパカやモヘアの混率が高いと、バランスが取れていても編んでるうちに歪みが溜まり跳ね返る現象が起きる。(下駄目という)
  • 撚り回数のルールとして、紡毛は下撚りの半分くらいの回数で上撚りにする、綿は下撚りの3分の2程度で上撚りする。撚り回数が多すぎると「撚り切れ」を起こす。
  • 編み機のバランスが崩れていることも斜行の原因となりうる。機械を水平に置き、ベッドサイドも一律に何ミリと、右測・左測で同じ幅にする必要がある。
  • 同じ糸で巻き返しを繰り返すことも、斜行の原因の一つになる。巻き返しを繰り返すと、どうしても撚りが入ってしまうため、ロウ引きも一回に抑えてもらうほうがよい。
  • 斜行しやすいかどうかを確認する簡単な方法として、糸をUの字に垂らす方法がある。
    • U字を保てていたらバランスが取れて斜行しづらい。くるくると回ってしまうと斜行が起きやすい。

むすびに

今回のテーマはいかがでしたでしょうか。

ひとくちに「斜行」といっても、様々な要因が複雑に関係しているんですね。

皆さんの理解の一助になっていましたら幸いです。

次回の「教えて!ターさん」もお楽しみに!