【教えてターさん!】投入と実貫について【新企画スタート!】

  • 教えてターさん!

19

本日より新たな企画がスタートします。

その名も「教えてターさん!」シリーズです。

私達丸安毛糸の田崎(通称ターさん)は勤続年数44年(!)の大ベテラン。

糸に関する知識、そしてこれまで積んできた経験は唯一無二。

そんな田崎に糸のアレコレを自由気ままに質問し、それに答えてもらう企画、それが教えてターさん!です。

※個人的な見解が含まれる場合がございます。あらかじめご了承ください。

今回のインタビュアーは佐野です。

それでは、記念すべき一回目は「投入と実貫について」です。

では、今日は投入と実貫を教えてください!
投入と実貫って何ですか?いつからある話なんですか?

僕が入って44年経つけども、その前から投入と実貫って話はよく出てたみたい。
投入っていうのは生地糸ベースで、染み上がった重量そのまんま出荷するのが投入。
実貫っていうのは、そもそも糸は染色したときに必ず目減りが出ます。ウールだったら脂が落ちたり。綿だったら漂白して、綿カスだとかが取り除かれたり。ウールだったら8%くらいの目減りが出る。それを加味して重量をみるのが実貫。
あくまで実際の染め上がりの数量を測って売るのが実貫販売になってくるんだけども、ここで昔問題が色々と起こったんだよ。

その問題とはなんですか??

実貫販売にするんだったら乾燥を弱め、少し湿ったくらいで出荷すれば、当然水分が多いから重たくなる。実際の重量よりも多い状態で糸の販売ができちゃうわけ。
そうすると糸屋としては得するよね。
反対にそうすると何が起きるかっていうと、湿気が多いので編みにくい、滑りが悪い、カビが生えるという問題があった。
だから最終的に決められたのは、紡積メーカー、撚糸屋さんを信じて、投入という形にしましょうよと。
あくまで紡積メーカーが1キロ、撚糸屋さんが1キロというものを、それをそのまま1キロという形で販売するのが投入販売という形になったのよ。

そもそも投入と実貫という言葉があるということは、糸というのは染める前と染めた後で 重さが違うってことなんですか?

さっきも言ったように、ウールなどは糸を引くときに油を入れたりとかしないと糸は作れない。
そうすると染色したときに、当然洗いが入ったりとかしたときにその油分が抜けるので、はじめの生地糸よりも、染料が入るときにその油分が抜けるので、数量が減ってしまう。綿だとか麻だとか、特に麻なんかは、もともと淡色、ベージュ色のものを白く漂白するので、不純物がみんな取られちゃう。
そうすると1割ぐらいその時点でなくなってしまって、染料が入って8%減ったとしたらもっと10%ぐらいなくなっちゃうから。
本当に麻の白なんかって言ったら15%ぐらい消えちゃう。黒だと10%ぐらいに復元する感じかな。

復元する?重量が戻るということ?

染料が黒だとその分それが繊維の中に入るから10%ぐらいで済む。
白は染料が入らないでしょ?だから晒したままだから15%ぐらい麻の場合は減ることになっちゃう。

生地糸があって染色して重さが変わるっていう事実は何となく分かりました。
ただ途中工程だけいくと染料を入れるってことは何かしらが付着するわけだから増えるんじゃないかなって思ったんですけど、それが麻とかで分かりやすいんですよね。
白は落としきっているだけ、黒は落としきった状態に染料が入るからプラマイゼロにはならないけど結果少し減るだけで済む、ということですね!

そうだね。

今の話の中でいうと麻について。乾燥している時はそれこそ10%から15%目減りしているんだけども、雨の日にその麻の実貫を測るとほぼほぼ1キロに戻る。
だからそのぐらいの麻は水分を吸収する。じゃあ雨の日に出荷したら重い状態での販売になる。そうするとうちは得しちゃうわけだよね。水分込みになっちゃうから。だからそういうことをなくして生地糸ベースで考えるのよ。

でここがまた厄介なとこで 糸ってあくまで長さじゃない 1キロに対して1番単糸だったら1キロメートル だからそれが生地になるから 900グラムしかないんですよって言っても長さはちゃんとある。

ここまでのお話で言うと、投入と実貫って言葉があって、投入は染める前の状態の1キロ イコール1キログラムでした。
でも実貫で欲しいとなっちゃうと、その都度かなり数量の上下があって、どういう状態で出すかで重量が変わってくるから、糸販売というところだけで考えると、投入で販売した方が、私達もお客様にとっても分かりやすいということですか?

そうだね。
実貫で計算して販売するときに、これもまたややこしい問題が一つある。
じゃあ例えばウール100%、絣染めだと3%くらいの目減りで済むかもわかんないけど、チーズ染めのときには、もしかしたら内外層をカットしなきゃいけない。
脂が抜けたのが3%で、カット幅が何グラムって言うとその分まで減ってしまうので、 じゃあどういう形式で糸を染めて、どういう実貫で売るかっていうのは全部計算しなきゃいけない。
じゃあウール3%って言っても何かあった時に困るから、じゃあ5%の目減り率を見て計算を単価に反映させるみたいな感じになるのかな。

そうですね。
全部実貫で販売しちゃうと、その都度1本ずつ計量して、その単価はいくらかみたいな感じにしなきゃいけないから、出荷までの時間がかかっちゃうんですね。

まあ素材によって、じゃあウールは3%ぐらい目減り想定しておこうとか、じゃあ綿は8%見ておこうとか、じゃあ麻はやっぱり多く10%から12%ぐらい見とかなきゃいけないかな。
一番目減りが大きいのはシルク100%かな。
シルク100%の場合は晒しの状態、それをオフホワイトとして扱うんだけども、17-18%下手したらなくなっちゃうかもね。
ところが黒にすると、10%ぐらいの目減りで済む。

ちょっと違う角度の話をしてみようと思います。
僕も会社入ってすぐ糸販売を始めてるんですけど、初めて糸を売って、お客さんにご請求書をお送りするのが、投入と実感ということを知るより先だったんですよ。
何も知らずに、「この糸1本、いくら?」「この単価です」ってお伝えして、その後、結構な日数が経ってから、「量が1キロないんです…」というお話になったんです。
そこで染色している前と後で重さが違うことに、加えてカットロスがあったりとか、その目減りの問題は発生することを知ったんです。そこで初めて、投入という言葉があることを知りました。
糸を商売道具とする私達はこの話は絶対に知っておかないといけないですよね。

やっぱりこういう話を全て継承していかないとだめだね。
それが私達のような川上はもちろんのこと、川下のほうまで伝わるといいなと思います。

田崎さんは40数年前、それは先輩から教えてもらえたことだったんですか?

基本的に当時は綛染めが非常に多くてもうすべて綛の本数で出荷してた。
1キロの場合200gカセ5本か250gカセ4本か。それを束ねて1キロという形で販売してたんで測ることはなかった。
コーンアップはニッターさんがやってたことが多かった。

当時はコーンアップはすべてニッターさんがやってたんですか!今の僕らの糸販売の形態と販売するものの状態が違ったんですね!

じゃあそれがコーンアップして売らなきゃってなった時に、当然今みたいな実貫って言葉が出てきた。

仕事をされている中で自然とその言葉が出てきたから 何の違和感もなく受け入れられたんですね。

だから僕のデリバリー担当の先輩は、麻を当時4×1キロで販売しなきゃいけないものを 測りに乗っけて販売したの。これって実貫で販売してることになるよね。
だから絶対あとで在庫が足んなくなっちゃう。徐々に1本ずつ足りなくなっていって、 最終的になんで在庫ないんだ!って騒ぎになったことがあった(笑)

今は私たちは綛の状態での出荷をするケースってほぼゼロになったじゃないですか。 これはどれくらい前からなんですか?

どうだろうなぁ徐々にがなくなっていったとは思うけど、でももう35年くらいかなぁ。
この辺(墨田区)にも巻き屋さんだって結構あったんだよ。

へー!そうだったんですか!今全く0ですよね。

当時は巻き屋さんっていう商売がちゃんと成り立った。 江戸川にもあったなぁ。
そこへ持って行って、また巻き上がったやつを取りに行く。その当時まだ俺は若かったからどうしても先輩のコーンアップが優先になるんで自分のを早くあげたい時にはそこの巻き屋さんに行って、自分で自分の糸を勝手に掛けちゃう(笑)
自分で掛けて、あとお願いねって言うとその後は巻き屋さんも糸替えるの嫌だからそのまま巻いてくれる(笑)

でも物を知るって意味では今多分枷繰り機も触ったことない人たちも多いし、枷の状態を見たことない人も増えてきましたよね。

俺が入った43年前は圧倒的に綛染め中心だったから、チーズ染の方が逆に少なかった。
本来正直なことを言ったらウール100%をチーズで染めるっていうのはナンセンスなんだよね。伸びきった状態にしちゃってるから膨らみが出ない。
昔はウール100%のものを2/48、2/36、カセで染めて、カセでニッターさんに納品をする 。そうするとニッターさんが編む3日くらい前にコーンアップをしてやると風合いが非常にいい。どうしても湿っているとカビが生えたりとかいう問題が起きるので乾燥は過乾燥にする。それを放置しておくと自然に水分が戻って糸が膨らんでいく。 だから工業がどんどん進んでいって、スピードを求められる時代になってきたら、どうしても人の手間がいらないチーズ染めの方が工程が早いんで、どうしてもチーズ染めの方に移行してしまった。

チーズとカセの話はまた次回お話していただければと思います。
ここまで聞くと、私達糸を販売する方の目線でいくと、過乾燥の方がコンディションが良いとしますよね。だからニッターさんからすると、過乾燥って水分がないから編みにくい。
今って私達はストック販売をしているじゃないですか。染め糸で置いとくから、やっぱり乾燥気味になったり、湿気が多くなってきたりのコンディション変化が起きますよね。置いてる期間が1年あったら、その1年後のシーズンの中でコンディションが異なってくるんですよね。
なんか糸切れが多いとか、時期によってみたいなことが増えてるので、やっぱりちょっとストック販売は糸のコンディションに影響してるんですかね?

それはそんなに感じたことはないな。
逆に糸ってある程度寝かすと、ふんわりとして状態が良くなるんだよね。アンゴラにしても生地糸の段階ですぐ染めるよりも、生地糸で置いといて1年後の方がふんわりの良いものになっちゃうとか。
でもそんな時間を置く余裕ないから買ったものはすぐ染色して販売してあるんだけど、やはり寝かすといい風合いになるよね。
余談になるけど、日本の紡績の機械ってイギリス式かフランス式かなんだけど、昔はフランス式の方が多かった。 日本の紡績屋にはあまりイギリス式機械が入ってなくて、なんでイギリスの糸と日本の糸(=フランス式紡績機で作った糸)でこうも風合いが違うんだろうという話になって。
で、日本の紡績の人がイギリスへ視察に行った時に、「工場の中見せてくれ」って言ったら、向こうの人に「見たって無理だよ。私達は常に1工程ずつ終わった時点で何日か置くからね。そこで膨らみが戻る。機械の違いではない」と言われたそうな。
ところが日本の場合は、もう綿から一気に糸を引いちゃう。糸が膨らむところが全く無いんだよね。
だからそれが物を持っているか持っていないかが大事になってくる。ウールの綿をいっぱい持っていれば、寝かすということもできるよね。

そうですね。

そんなに物が無ければ、入ってきた物をすぐ糸までにして出荷しないと間に合わないというのがあるので、つまり海外と日本で物量の差があったんだね、昔から。

なるほど。紡績した綿の状態で置くんですか?2、3日、撚る前に?

もう昔、オーストラリアから原毛、それももう、本当に刈ったまんまのものを日本は買ったり、ヨーロッパもみんなそうだったんだけども、仕入れてからそこで洗いをするんだよね、綿を。当然、牧草が付いていたり、毛に油が付いていたりするので。 それを綺麗に洗う。
また余談になるけど、その出た脂を取って、それを化粧品にしたのがカネボウね。
で、それを今はもう、俺の時代でも、ほぼほぼ洗ったものを輸入している。
確かに紡績の工程の中で一工程終わって、例えば混紡が終わって前紡前に寝かせられるとか、前紡績が終わって正紡前に寝かせられるとか、そうしたら結構違うのかもしれない。
それはどうしても、紡績機を見たことがあればわかるんだけど、あの大きいローラーみたいなのの中に針みたいなのがいっぱいあって、髪を梳かす櫛みたいになってるわけ。
そこで梳かすというようなことをするんだけども、その工程ですべて綺麗に縦にはならない、どうしても斜めのものが出てくるわけ。それを置いておくことによって糸が膨らんだ同時に、これがまっすぐ戻ってくる。それがいきなりワタから糸までにされたら、斜めのものはずっと斜めになる。 そうするとこれがチクチクの原因になるんだよね。

なるほど。ありがとうございます。深いですね…。
話を本題に戻します。
お客さんの目線に立った時に、 要は簡単に言うと染色前と後で、長さは変わらないけど重さは違う。 長さに関しては、チーズ染めに関してはカットロスが出てくる。
今更ですけど、オーダーをするときは量産のときはある程度糸が減っているというロスがある想定で糸量計算をしてオーダーをするのが本来は一番良いというわけですね?

ニッターさんは必ずウールは何%減る、綿は何%減るってのは感覚的に知っていてそれを加味して使用量というのは計算されているわけ。
それを今一度周知できたらいいですね。素材ごとのロス率って結構違うと思うんですけど、これは会社のブログ(ニットマガジン)にあるのかな?
ウール3%、綿は8%。少なくとも今の現状を考えると7%くらい減ると思ってもらって、ちょっと不安なものについては10%くらい見てもらった方が安定するかなと思います。
紡毛の場合はほぼトップだから目減りはないよね。

なるほど。よくわかりました。 一旦投入と実感をこんな感じにしましょうかね。

あともう一個。
今それほど言われてないのは、じゃあ輸出する時に投入と実貫の数字が両方記載されているじゃん?昔は投入と実貫の問題は結構あったもんね。なんで10キロのお金払うのに、ものは9.2キロしかないのとか。昔はあったけど今はないでしょ。海外は基本実貫だから。

で、海外から輸入して糸が日本に来た時に同じ数量かと言うと大体減っているんだよね。逆に言うとオーダー数量を確保するために実貫で来るから普通なら多く来るわけじゃない?
日本なんか湿気多いって言うのに対して、海外の方が湿気ないんだから日本に来た時日本の湿気を吸って重量は増えなきゃいけないわけだよふつうは。
それが減っているっていうのはどういうことなんだろうね?(笑)
まあそういう重量の問題はいろいろあるしこれからもなくならない話だと思いますよ。

私達の商売について、必ずついてくる基本中の基本の投入と実貫について、とてもよくわかりました。
ありがとうございました!

はいよ~ぅ

糸を扱う上で基礎中の基礎、だけど間違えやすい「投入と実貫」

少しでも皆さんのお力になれると幸いです!

以上です、次回をお楽しみに!